Research
公共コミュニケーション
研究のきっかけと趣旨
大学院で公共政策の勉強をしていた頃から気になっていたことがあって、それは「政策や法令は作って終わりでよいのか?」ということでした。もっといえば「世の中にわかってもらうための努力をすべきではないか?」ともいえますが、いずれにせよ公共政策のように社会的に重要であるにもかかわらず関心が必ずしも高くない分野については、コミュニケーションの方法に工夫が求められるのではないか、ということを考えていました。
とくに現代の情報空間では下図の通り「正しい情報」の価値が減退し、「感情が動かされる情報」が力を持つようになってしまいましたので、コミュニケーションの目的を達成するためには少なくとも一方通行の情報発信では足りず、実質的な双方向性・多方向性を確保する必要があります。また、欧米の 'public' と日本の「公共」の意味が異なることは多く指摘されているところであり、したがって欧米のパブリック・コミュニケーションの方法論をそのまま輸入することができない、というのも事態を複雑にしています。
その後、コミュニケーション系の専門職大学院に就職して社会人大学生と関わるなかでわかったのは、こうした悩みは公共セクターのみならず民間企業でも共通しているということです。たとえば介護業界や医薬品業界、あるいは社会課題解決に取り組む事業者もまた、その限界を理解しながらも「情報の正しさ」・「いいことをしているという事実」を中心としたコミュニケーションから脱却できていない状況に直面しています。
「公共コミュニケーション」という言葉は従来、関連学会においても単に「公共領域で行われるコミュニケーション」といった形で理解されてきました。しかしながら、こうした状況を踏まえれば、より目的志向的に「人々から関心を持たれづらい領域において、場合によっては負の感情を抱かれていることを前提として取り組むコミュニケーション」と捉え直し、そのための思想と技術を集積していくことがより適切だと考えられます。